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Plus-ML(プラスメーリングリスト)
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※Legal Notice:下記は2001年7月4日に投資顧問企業へ寄稿したレポートをHTML化したものです。2001年7月時点の内容も含まれ、必ずしも現在を反映しているわけではありません。情報に関しては万全を期してはいますが内容を保証するものではありません。万一この情報に基づき被った被害について当ウェブサイトへの情報提供元は責任を負いかねます。ご了承下さい。

バイオテクノロジーと知的財産(無形資産)
21世紀に入り数ヶ月が経過しましたが、2000年初頭のネットバブル崩壊という株式市場の影響を受けて、ITという大きな流れが一段落した感があります。株式市場の影響を少なからず受けたにもかかわらず、それでも尚、期待感が高まっているのがバイオテクノロジーであり、特許、商標、意匠、ブランド、人的資産といったIP(Intellectual Property)いわゆる知的財産です。そこで、本稿ではまずバイオ関連企業紹介に続いて、バイオに深く関係する知的財産の話をしていきたいと思います。

アメリカ経済を活性化させている要因には、1970年台-90年代に設立された比較的設立が若い企業、マイクロソフト、インテル、オラクル、デル、シスコといったソフトウェア・半導体・PC・通信機器関連といった企業群が次々と生まれて、産業を創造しているという点が大きいと思われます。一方、今後更に産業を活性化させると言われているのがバイオ関連企業群です。「国際ヒトゲノム計画」が始まったことによって、一大産業を形成し始めています。バイオ関連企業群には、ジェネンテック(http://www.gene.com/)、アムジェン(http://www.amgen.com/)、セレーラ(http://www.celera.com/)、インサイト(http://www.incyte.com/)、アフィメトリクス(http://www.affymetrix.com/)といった企業が続々と登場し注目を浴びています。これらバイオ関連企業には大きな特徴があり、事業の成功・失敗のカギを特許戦略においているという点です。元々、バイオ関連の特許の歴史は古く、今から20年ほど前の1974年に出願されたコーエン博士とボイヤー博士による「遺伝子組換え技術」に関する特許がバイオ関連特許第一号であると言われています。コーエン博士とボイヤー博士の「遺伝子組換え技術」の特許は基本特許であり、500社程度がライセンスを受けたと言われています。ボイヤー博士はその後、1976年にスワンソン氏と共にジェネンテックを設立し、ベンチャーキャピタルであるクライナーパーキンスからファイナンスを受け、ヒトインシュリン等の生産に成功し、現在では大きな成長を遂げたバイオ関連企業となっております。(1999年にロシュが買収。)

アムジェンは1982年に設立された企業で、EPOGEN(赤血球を増やすバイオ医薬)、NEUPOGEN(白血球を増やすバイオ医薬)が主力商品です。アムジェンはこの2つの医薬品に対する特許に関して積極的に出願を行い権利を取得、他社企業に対しては特許侵害訴訟などで勝利をおさめ米国市場において優位な地位を押さえています。現在では従業員6,000名を越える企業になっています。

バイオインフォマティクス
膨大な解析データを処理するためには、高度なIT技術が必要になります。遺伝子の解析がスピーディーに行われている背景にはIT技術無くしては語れません。IT技術とバイオの融合により、それまでに存在しなかったタイプの企業が登場してきました。バイオインフォマティクス関連の企業です。試験管を手に研究者が顕微鏡を覗いて行われる分析という方法もありますが、現在は解析作業そのものを高度なIT技術が導入されているコンピュータが行うという方法を取っています。コンピュータを駆使して解析を行うといった事を総称して「ドライバイオ」と呼ぶ方もおります。

さて、このIT技術を十二分に活用し、ヒトゲノム解析で有名なセレーラという企業があります。セレーラは、元々アメリカの「国際ヒトゲノム計画」の中心となっている米国立衛生研究所(NIH)にいたクレイグ・ベンター博士が中心となっている企業です。DNAシーケンサーを300台以上並べて、ゲノムの解析を行っています。セレーラの登場はセンセーショナルな側面もありました。セレーラは国際プロジェクトである「国際ヒトゲノム計画」より先にヒトゲノムの解析が行えると発表したこと、更に解析と同時に次々と特許出願を行っているというという事実があったからです。セレーラの解読した遺伝子が特許取得になった場合、莫大なロイヤリティーが発生するのでは?と危惧した方々も存在しました。こういった背景を受けてか、「国際ヒトゲノム計画」においてヒトゲノムの全解読を2003年まで終了すると計画自体が前倒しになりました(従来は2005年まで)。現在、セレーラは1万件以上の特許を出願しており、ビジネスモデルはゲノム解析データを必要とする企業に対してデータベースとして提供するというもので、価格は500万ドル/年間以上となっています。日本でも武田薬品がセレーラと契約(金額は公開されていません?一説には30億円とも。)しています。

1991年設立のインサイトはバイオインフォマティクス全般が事業です。インサイトが1998年に取得したDNA断片の特許によって、DNA断片に関する特許出願がバイオ関連企業を中心にラッシュとなりました。ゲノム創薬を開発する際、これらの複数のDNA断片の特許によって、ロイヤリティーが発生した場合、製薬会社のみならず一般消費者に対して影響を与える可能性もあるかもしれません。ただし、USPTO(米国特許庁)も1999年12月に有用性に対する条件を追加して特許化のハードルを高くするといった内容の方針変更を発表しております。これにより特許に対する審査基準が厳しくなったと言われますが、今後も動向を追っていく必要があると思われます。また、今後もDNA断片に特許が次々と与えられ、数多くの企業が、それぞれ特許出願を行い、それぞれライセンス活動を行い、それぞれロイヤリティー支払う、ということになった場合、処理にかかるコスト削減のために、関連する特許全てを「特許プールする」という選択もあるかもしれません。特許プールについてはUSPTO(米国特許庁)が白書をWeb上に公開しておりますのでご興味の有る方は一読をお薦めします。

バイオと特許が密接に関係していることがおわかり頂いたと思いますが、日本における遺伝子工学関連特許の出願ランキングを見てみますと(特許庁のデータ:参考はこちら)、外国のバイオベンチャー企業による特許出願比率が大きいのに比べ、日本ではバイオベンチャー企業による特許出願比率は小さいということがわかると思います。遺伝子工学関連特許の出願の多い外国の企業で、ベンチャーから出発した企業は全体の30%弱と高い構成率を占めています。これらの企業は既にベンチャー企業から大企業となったものがほとんどです。日本におけるベンチャーと外国におけるベンチャーにはいくつかの側面において違いがあるため、日本のバイオベンチャーの特許出願比率が小さいことについての原因を一概には言えない面もあります。例えば、アメリカのバイオベンチャーの企業数は2000年のデータで1300社と言われておりますが、それに対して日本のバイオベンチャーの企業数は160社程度で欧州の700社にも及びません。アメリカに比べ企業数で8倍以上の差があるため、バイオベンチャーからの特許出願が少ないのも道理かもしれません。

日本においてこの状況をかえるための課題はバイオベンチャー企業が次々生まれる土壌と資金面でサポートするベンチャーキャピタル、社会的基盤といった点など重要になってくると思われます。日本でもいくつかのベンチャーキャピタルによって数10億〜数100億単位のファンドが設立されてますが、短期的なキャピタルゲインを目的としている場合は投資家の期待を下回ることも有るかもしれません。バイオ関連事業自体長期的な面が多く、例えば医薬品などが顕著ですが、収益をあげる為に研究開発は5年〜10年ほどかかることもあり、費やされる金額も巨大で資金的に余裕もない企業がベンチャーとして事業を継続し株式公開まで至るには大学やTLO、ベンチャーキャピタルや投資銀行、あるいは株式市場と投資家といったバイオという産業を支える全ての理解と協力無くしては成り立たないと思います。バイオ産業においてTLOやベンチャーキャピタルや投資銀行に求められているのは、技術移転、ライセンシング、M&Aなどを積極的に推進することかもしれません。

バイオ産業が今後も成長分野であることは間違いないと思います。1988年-99年までの平均年率成長率から類推すると、日本において2010年の市場規模は10兆円をはるかに越えることになります。25兆円程度になるのではないだろうか?という試算もあります。世界に目を向けグローバル展開を考えるともっと大きい市場になるかもしれません。日本がこの巨大な市場において優位性を保つには特許を中心とした戦略が重要で、ポストゲノムに関して言えば、立ち後れないために大企業・ベンチャーを問わず、遺伝子配列の解析からたんぱく質解析を中心とした機能解析へシフトする必要もありそうです。

注目される無形資産
先に上げたセレーラとインサイトの企業の概要を見てみましょう。セレーラは(Applera Corporation が統括会社)1998年設立で、2001年の売上げ予測は約8,800万ドルに対し時価総額が約25億ドル(2001年7月2日現在)です。一方、インサイトは1991年設立で、2001年の売上げ予測は約2億4,000万ドルに対し時価総額が約16億ドル(2001年7月2日現在)です。以上のことから両社の時価総額が膨れ上がっている点が見受けられると思います。数年前のネット関連企業の銘柄でも同じような状況がありました。この要因についてですが、ブームであるという見方も有るかと思いますが、他にも理由が有ると考えられます。

そのうちのひとつにインタンジブルアセット(Intangible Asset)、いわゆる無形資産があると言えます。無形資産とは、IP(Intellectual Property)、いわゆる知的財産に含まれる工業所有権(特許、商標、意匠など)と著作権ならびに、会社の役員や従業員といった人的資産、企業の伝統や歴史やサービス、プロダクトに関連するブランド、フォーチュン500企業などを顧客にしているといった取引先の関係などが対象になります。無形資産は年月を経ることに重要性が増し、アメリカでは過去10年間という短い間で無形資産の対時価総額比率に占める割合の増大が見られており、時価総額に占める無形資産の割合は7割を越えるという指標もあります。

セレーラでいえば、ヒトゲノム解析や遺伝子関連の特許を複数出しているといったことをうまく宣伝したこと(株で言えばIR(Investor Relations)を行ったこと)が現在の時価総額を反映しているといってもいいかもしれません。株価について妥当か適正かといった客観的判断については、株価収益率(PER)、株価純資産倍率(PBR)、株主資本利益率(ROE)等のマーケットで一般的に使われる指標の他に、無形資産を評価することによっても判断できるようになるかもしれません。もちろん、無形資産の価値を算出することは、たいへん困難ですが金融的アプローチを取ることによって、いくつかの指標を出すことが出来ると思います。

ネット関連企業の時価総額が膨れ上がっていた時期にも、いかなる数値を取っても説明のつかない企業がたくさんにありました。今後、バイオ関連企業においても同様の現象が起こる可能性も少なからず有るかと思います。インフォメーションテクノロジー、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーが21世紀の産業を支えると言われておりますが、これらの動向を知的財産を中心として注意深く追っていくことが必要だと思います。

参考
遺伝子工学関係国内主要出願人(特許庁より。修正加筆)

A医薬品企業 B食品・醸造業 C化学企業
D分析機器メーカー Eベンチャー系 F大学・研究機関
出願人 出願件数 種別
武田薬品工業 305 A
三菱化学 274 C
味の素 268 B
工業技術院長 231 F
協和発酵工業 214 B
帝人 208 C
島津製作所 207 D
旭化成工業 201 C
宝酒造 154 B
日立製作所 148 D
東洋紡績 136 C
三井化学 135 C
サントリー 133 B
住友化学工業 125 C
東ソー 124 C
化学及血遺療法研究所 107 A
ミドリ十字 107 A
大塚製薬 106 A
東レ 89 C
塩野義製薬 88 A
キリンビール 84 B
理化学研究所 82 F
キッコーマン 81 B
湧永製薬 75 A
雪印乳業 75 B
東燃 73 C
ヤクルト 71 B
三共 68 A
藤沢薬品工業 68 A
住友電気工業 60 C
住友製薬 59 A
鐘淵化学工業 59 C
日本たばこ産業 56 B
癌研究所 56 F
日本ゼオン 55 C
中外製薬 52 A
蛋白工学研究所 51 F
科学技術振興事業団 51 F
相模中央化学研究所 51 F
林原生物化学研究所 50 E
チッソ 47 C
明治製菓 43 B
天野製薬 39 C
大日本製薬 38 A
三楽 38 B
エーザイ 37 A
明治乳業 37 B
東亜合成化学工業 37 C
花王 36 C
山之内製薬 35 A
日立化成工業 35 C
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